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「英会話の習得に英文法学習は必要か?~前編~」では英文法不要論のおもな主張を点検し、英文法不要論の根拠に正当性が乏しいことを確認しました。
ではなぜ英会話の習得に英文法学習は必要なのでしょうか?今回はその積極的な理由を考えていきたいと思います。
目次
1.演繹的学習法と帰納的学習法
学習には演繹的方法と帰納的方法があります。
演繹的方法とは、「あるルールを前提として、そのルールを個別の事例に当てはめていくやり方」です。
一方の帰納的方法とは「個別の事例を集めて分析し、そこから1つのルールを導き出していくやり方」です。
動詞の進行形を例にして考えてみましょう。
演繹的学習法ではまず前提となるルールを学びます。
「Sは~している」→S + be + Ving.
これがルールです。このルールを個別の事例に当てはめます。
「私は食事をしている」I am eating.
「あなたは手紙を書いている」You are writing a letter.
「彼はiPhoneで話している」He is speaking on his iPhone.
このように1つのルールを前提として、そのルールを個別の場面に当てはめていくのが演繹的学習法と呼ばれるものです。
では帰納的学習法で動詞の進行形にアプローチするとどうなるでしょうか?まず個別の事例に着目するわけですから、
I am eating.→「私は食事をしている」
You are writing a letter.→「あなたは手紙を書いている」
He is speaking on his iPhone.→「彼はiPhoneで話している」
などの具体的な文例を考えるわけです。そこから
『~している』と言いたいときは<S + be + Ving>という形にする
というルールを導き出してくることになります。
それでは演繹的学習法と帰納的学習法ではどちらが効率的でしょうか?
言うまでもなく演繹的学習法の方が効率という面では優れていると言えるでしょう。帰納的学習では1つのルールに到達するために数多くの文例に当たらなくてはなりません。そしてそこから自力でルールを導き出すのは骨が折れるどころではありません。
一方、演繹的学習法ではルールを1つ覚えてそのルールを多くの場面に当てはめれば良いのですから、学習効率の上で優れていると言えます。
より効率的な演繹的学習法をとるためにはルールの習得が必要でそのルールがまさしく英文法なのです。よってより効率的な学習をするためには英文法の習得が必要だと言えるのです。
2.英語をスポーツにたとえてみると…
英文法は英語を使って文を作り意思や思想を伝えるためのルールのようなものです。
スポーツを例にして考えてみましょう。
たとえば野球のルールを知らずにプレイすることができるでしょうか?
球を投げることはできるかもしれません。バットを振ってボールに当てることもできるかもしれません。しかしそれが出来ただけでは野球の試合には出られないのです。
バッターにボールを打たせたくないからと言って、投げるふりをして相手をひるませ、そのすきにボールを投げるようなことをしてはいけませんし(ボークですから)、せっかくバットにボールが当たりかなり遠くまで打球が飛んで行ったとしても、三塁側に走り始めては意味がないのです。試合に出て活躍するためには必要最低限のルールを知っていなくてはならないのです。
英語も同じことです。散発的に単語や熟語、口語表現を覚えたところで、それをめちゃくちゃに配置していては意味をなさない不可解な文が出来あがるだけ。相手に自分の思いを伝えることはできないのです。
単語や熟語、口語表現を覚えることを投球練習や打撃練習だとするならば、その練習の成果を試合の中で生かすべく学びとるべきなのが英文法というルールなのです。
英語と日本語は言うまでもなく異なるルールによって作られています。私たち日本語ネイティヴが英文法を学ぶことは、せっかく努力して覚えた単語や熟語を、意味にある形に組み上げていくために絶対に必要なことなのです。
3.1つのルールが広く活用できる
英語という言語はルールが1つ決まればそれが英語全体に当てはまるという傾向を持っています。ルールの例外がゼロだとは言いませんが、例外の数はかなり限られています。時折「これは文法の例外です」などと連発する英語教師に出会うことがありますが、そういう人英語のことをよく分かっていないのです。
1つのルールが決まればそれが英語全体に当てはまるというのは学習者にとってかなり心強いことです。しかもそのルールは大量にあるわけではありません。
そもそも言語とは子どもでも話せるように構築されていくものです。複雑なルールが大量にあるようでは子どもは言語を駆使できないことになってしまいます。英語を構成するルールも実はシンプルなものばかりで、その数も誰にでも習得できるようなものなのです。
このことが分かれば「英文法を学習しない手はない!」ということがお分かりになるでしょう。シンプルで限られたルールを習得すれば、それを英語全体に応用できるのですから!
4.重要なのは何をどのように学ぶか
大切なことはどのような文法をどのように学ぶかということです。従来型の学習でよくあるように、文法を一覧的にとにかく暗記するというやり方では努力に見合う成果を得ることはできません。
まず「何を」学ぶかという点ですが、これについては英語学習の目的と目標が深くかかわってきます。どのようなシーンで英語を使いたいか、どのレベルまで到達したいかによって学ぶべき事柄は変わってくるからです。この点については学習者それぞれによって個人差が出てきます。
「どのように」学ぶかという点はすべての人について共通する重要なことがあります。特に重要な点を3つにまとめてみましょう。
ポイント①丸暗記しようとせず「理解」することを重視する
言うまでもなく「丸暗記」は苦痛です。英文法を学ぶ上で暗記が必要とされることがあるのは事実ですが、それは「理解を伴う暗記」です。理屈抜きの丸暗記ではありません。
理解が伴えば記憶も容易になりますし応用が利くようになります。その一方で理解のない丸暗記は学習のモチベーションも上がりませんし、応用が利かないので膨大な記憶作業を必要とします。これでは学習が続くはずもなく、結果として英語の勉強を中断する原因となります。
ポイント②「疑問を持つ感性」を大事にする
学習の上で重要なのは自力で答えを見つけることではありません。むしろ「疑問を持つ感性」を持つことこそが重要なのです。
Noah says a rose is a flower for such an occasion, but I think it is the flower for an opportunity like this.
「ノアはこんなときにはバラでもいんじゃないと言うけど、僕はバラこそこんな機会に相応しい花だと思うんだ。」
この英文と日本語訳を見たとき、そのままスルーしてしまう人と、「かたや”a flower”と言い、かたや”the flower”と言っているのはなぜだろう?」と疑問を感じる人とでは、文法の理解の深さに差が出ます。
もちろん疑問をそのまま放置してはいけませんが、そもそも疑問を抱かなければそれを解決することもできません。疑問を持ちそれを着実に解決していくことで、英文法の理解が深まり、それが本当に使える英語力につながっていくのです。
ポイント③アウトプットの機会をできるだけ多くつくる
英語の学習においてインプットとアウトプットは車の両輪です。英文法の学習は知識のインプット作業ですが、インプットしただけでは英語を使えるようにはなりません。
重要なのは学んだ文法を使う機会をできるだけ多くつくるということです。これを私は「経験値をためる」と呼んでいますが、単語でも表現でも文法でも、それを自分の言葉で使う経験がどれほど積みあがってきているかによって、それらが使えるかどうか決まるのです。
中学や高校で英語を勉強したにもかかわらず、実際に英語を使えない人が多いのは、アウトプットの機会が充分でなく経験値が足りないからです。
アウトプットの機会の作り方については別の記事で紹介したいと思いますが、学んだことを実際に使う機会をできるだけ作るようにしましょう。
以上、英文法を学ぶべき理由を列挙してみました。
私たちは無限に時間があるわけではないので、いかに効率的に英語を身に着けるかが重要です。
その観点からすると英文法の勉強がいかに大切かご理解いただけたのではないでしょうか。
5.この記事のまとめ
1.帰納的学習法に比べ演繹的学習の方が効率的です。
2.演繹的学習法のためにはルール=英文法の学習が必要です。
3.ルールを知らなければスポーツができないように、英文法というルールを知らなければ英語を使えるようになりません。
4.英文法はシンプルでルールの数も限られており、しかも1つのルールが英語全てに当てはまること多いので学習しない手はありません。
5.英文法を学ぶときは「何を」「どのように」学ぶかが重要です。ポイントは「理解を重視する」「疑問を持つ感性を大事にする」「アウトプットの機会をつくる」の3つです。
最後までお読みいただきありがとうございました。