英文法不要論についての考察(2)

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前回に続いて今回も「英語の習得に英文法の勉強は不必要だ」という主張について考察してみます。
前回は「ネイティヴは英文法を意識しない」「日本人だって日本語文法を意識しない」「だから英文法の学習は不必要だ」という主張の問題点について考え、これらの主張は適切ではないことをご説明しました。
今回は新たに、英文法不要論者が主張しがちな2つの点について検討してみたいと思います。

1.英文法を学ばなくてもしゃべれる人がいる?

英文法不要論者の主張の中には「英文法を勉強しなくても英語を話せるようになったノンネイティヴはたくさんいる!」というものがあります。この主張の真偽を検討するときには「語族」と「学習環境・学習効率」に注目することが大切です。

言語学では言語の歴史や共通性などに基づいて、言語を「語族」という系統に分類することがあります。この分類によると、お互いに近しい関係にある言語、遠い関係にある言語があることが分かります。

英語はインド・ヨーロッパ語族の中のゲルマン語派・西ゲルマン語群に分類されます。これとまったく同じ分類になる言語にドイツ語やオランダ語があります。また語派は異なりますが、インド・ヨーロッパ語族という大きなくくりで英語と同じなのはフランス語やスペイン語です。

これらの言語を母国語とするノンネイティヴたちは、自分の母国語と英語の間に多くの共通点を見出すことができます。その結果、文法を体系立てて勉強しなくてもある程度の英語を話せるようになる可能性があります。

一方、私たちの母国語である日本語の系統分類はいまだに研究途上ですが、現状では日本語族・日本語派に分類されています。つまり日本語はそれだけで独立した一派をなしている、世界の他の言語と比べてみても非常に特異な言語だということになります。ですから語形や文型という点では、英語との共通点を見出すのは不可能なのです。

英語と近しい関係にある言語を母国語とするノンネイティヴと、遠い関係にある言語を母国語とするノンネイティヴでは、学習方法やアプローチ、習得にかかる時間が異なるのは当然です。

「英文法を学ばなくてもしゃべれるようになったノンネイティヴがいる!」と主張する人の多くが、この「語族」という視点を無視しているようです。

しかし、語族的側面に注目すると「他のノンネイティヴが文法を勉強しないから私たちも文法の勉強はしなくても良い」という考え方は極めて乱暴な主張だと言わざるを得ないでしょう。

2.英文法を学ばず話せるようになった日本人もいる?

「語族」に着目して英文法学習の必要性を説明すると、「日本人でも英文法を学ばずに英語を話せるようになった人がいる!」という反論をいただくことがあります。

たしかにそのような人は一定数存在するでしょう。しかしそのような例を考える場合、どういう学習環境で学んだ結果そのようなスキルを手に入れられたかを考えることが重要です。

たとえばアメリカの大学に4年間留学し、明けても暮れても英語に囲まれた生活の中で英語を習得した人と、日本に暮らして日々の仕事と様々な家庭の用事をこなしつつ英語を勉強し、週に1回英会話スクールに通っている人とでは、取るべき英語学習へのアプローチは異なるはずです。

英文法を体系的に学ばずに生活の中で英語を習得していくというやり方は「習うより慣れろ」的なアプローチですが、このような学習方法が実を結ぶためには、日々の生活の中で英語のシャワーを浴び続ける必要があります。

しかしそのような学習環境の中に身を置ける人が、果たしてどれほどいるでしょうか?

統計を取ることは難しいのですが、筆者が数多くの方と一緒に英語を学んできた経験からすると、日本で暮らしながら限られた時間の中で英語を学ぶ場合、英文法をきちんと学んだ人の方が上達が早いようです。

方法論を学び、その上で練習を通して技能を高めていくという点では、語学は料理に似ていると思います。

たとえば、まったく知識がない状態で「おいしい卵焼きを作ってください」と言われたらどうでしょう。材料も作り方も分からない人が、何度も何度もチャレンジして手探りで卵焼きの作り方を習得するまでには、一体どれくらいの時間がかかるでしょうか?

一方、初めて卵焼きを作る人であっても、料理の本を参考にしながらレシピを学び、その上で調理に取りかかれば、最初から「会心の出来」とはいかないかもしれませんが、何度か試しているうちにそれなりの卵焼きを作ることができるようになるでしょう。

料理でいうところの「レシピ」が、英語学習でいうところの「英文法」です。このようなたとえを通して考えてみると、「英文法学習は不要だ!」などと簡単には言えないことがご理解いただけるのではないでしょうか。

学習環境や学習効率を検討することなく、「英文法を学ばずに英語を習得した日本人がいる!」という実例だけを根拠にして「英文法は不要!」と結論づけるのは、やはり乱暴な考え方だと言えそうです。

今回は「英文法を学ばずに英語を話せるようになった人がいる」という実例を根拠に「英文法不要論」を唱えることが適切かどうかを、「語族」的側面と「学習環境・学習効率」的側面に注目して検討してみました。
このような考え方をしてみると、簡単には「英文法不要論」を支持することができないことがお分かりいただけると思います。
日本語ネイティヴが第一言語形成期を過ぎた後で英語を学ぶ場合、やはり英文法を学ぶことは有効なアプローチだと言えるでしょう。