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学校や英会話スクールで習った通りの言い方をしたのに、ネイティヴから「そんな言い方はしない」と指摘されてしまった…。そんなご質問やご相談を受けることがしばしばあります。
せっかく勉強したことを思い切って使ってみたら「そんな言い方はしない」と言われてしまうとガックリきてしまうのも無理のないことです。
このような指摘を受けたことがある方の中には「やはりノンネイティブから英語を学んでも無駄なのだ」と結論を急いでしまう方もときどきいらっしゃいます。
今回は「そんな言い方はしない」という指摘をネイティヴから受けた場合の向き合い方について考えてみたいと思います。
目次
1.英語と日本語の使用範囲と使用人口
まず認識しなければならないのは、日本語と英語ではこれを用いる範囲も人口も大きく異なるということです。
日本語を公用語としている国はもちろん日本です。意外なことに、パラオの一部の地域では日本語を公用語と定めていますが、いずれにしても日本語を公用語として用いる国や地域はごくごく限られていて、その人口も限定的です。
このように使われる範囲や人口が限定される言語は「標準化」される傾向が強いので、誰もが同じ表現を使うようになりがちなのです。
このような言語環境で育った日本語ネイティヴは、何かを表現するときに「ただ一つの正解」を求めがちなのです。
一方、英語を母国語とする人は3億8千万人ほどですが、英語を話す人口は15億人にも上るといわれています。また英語を第一言語とする国は12ヵ国、公用語とする国は50ヵ国もあるのです。
このように使用される国や地域が多岐にわたり、使用人口が非常に多い言語では同じ内容を表現する技法が異なったり、同じ構文でも微妙な違いが生じたりする場合があります。
つまりネイティヴ同士でも「私はそのような言い方はしない」「私もそのような言い方もする」と見解が分かれることはよくあることなのです。
日本語ネイティヴが考えるような「ただ一つの正解」が定まらないことがしばしばあるということです。
2.興味深いアンケート結果
旺文社から出版されている『オーレックス和英辞典』にはネイティヴ100人に聞く文法・語法についてのアンケートというコーナーがあります。その中にある非常に興味深いアンケートをひとつご紹介しましょう。
このアンケートでは、「その俳優は故郷に新しい図書館を建設した。」という日本文を以下のように英訳し、ネイティヴたちに「あなたもこのような言い回しをするかどうか」と尋ねています。
1)The actor made a new library in his hometown.
2)The actor built a new library in his hometown.
3)The actor had a new library built in his hometown.
アンケートの結果をお伝えする前に、上記の3つの文について通常はどのような説明がなされるか確認しておきましょう。
まず1)の文ですが、通常は建造物について”make”を使うことはないのでこの文は不適格とされます。
2)の文を文法則通りに解釈すると「その俳優は(自力で)故郷に新しい図書館を建設した。」となります。つまり自ら工具を持って、あるいは重機を操縦して図書館を建設したこととなり、これも不適格とされます。
しかるべき人や機関に依頼して建設したということになると使役動詞を用いた”have something p.p.”の形を用いるのが原則ですので、3)の文が適格ということになります。つまり上記3つの文で適格なのは3)のみということになります。
それでは『オーレックス和英辞典』によるアンケート結果はどうなったのでしょうか。
1)の文について「自分もこのような言い回しをする」と答えたネイティヴの割合は4%でした。さすがに建造物について”make”を使うネイティヴはほとんどいないようです。
2)の文については57%のネイティヴが「自分もこのような言い回しをする」と答えました。文法的には不適格とされる文ですが、過半数のネイティヴがこの文を適格としているのです。考えてみれば自力で図書館を建てるなどということは通常想定できないことなので、略式でこのような言い方は許容されるということです。
3)の文については91%のネイティヴが「自分もこのような言い回しをする」と答えました。3)の文が圧倒的に支持されているということです。
しかしここで興味深いのは9%のネイティヴは「このような言い方をする」と答えなかったということです。
文法的に正しいとされる文でさえ、すべてのネイティヴが一致してこの言い方を適格としていないということです。
3.セカンドオピニオンの大切さ
以上から分かることは、こと英語においては「唯一無二の絶対的な正解が成立しない場合がある」ということです。ネイティヴでさえも意見が分かれる例はいくらでもあるのです。
そこで勉強した英文をネイティヴに対して用い、「私たちはそんな言い方をしない」と言われたとしても、過度に敏感になる必要はないということです。過度に反応することでモチベーションが下がったり、いままでの学習の積み上げを放棄することのほうが、よほどダメージが大きくなります。
もちろん、「本当にこれでいいのだろうか?」と疑問を持つことはよいことです。ただ、一人のネイティヴから指摘を受けたからと言って、それを鵜吞みにして「こんな言い方はしないのだ!」「この表現は不自然で役に立たないのだ」などと結論を急いではいけません。
可能ならば他のネイティヴにセカンドオピニオンを求めるのがよいでしょう。そのとき、贅沢を言えば指摘を受けたネイティヴとは異なる英語圏の人に所見を聞くのがベストです。アメリカ英語を話すネイティヴから指摘を受けたのなら、ブリティッシュ英語を話すネイティヴにセカンドオピニオンを求めるというやり方です。
また他のネイティヴにセカンドオピニオンを求めることが難しければ、指摘を受けた英文をGoogleなどで検索してみて、本当に不適格な英文なのかどうかを検証してみてもよいでしょう。
4.まとめ
1)英語は使用地域や人口が多いため「唯一の正解」が定まらないことがあります。
2)同じ英文についてネイティヴ間でも見解が異なることがあります。
3)ネイティヴに指摘を受けたときは可能ならばセカンドオピニオンを求めてみましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。