“get”は多義語?(2)

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前回の記事ではgetの根本は「動き」であるということを確認しました。
それではどうして、getには「~になる(変化)」や「手に入れる(入手)」の意味もあるのでしょうか?今回の記事ではその謎解きをしていきたいと思います。

1.「動き」から「変化」へ

英語では「動き」「移動」を表す言葉の多くが「変化」の意味につながります

go、come、run、driveなどは「動き」「移動」を表す言葉ですが、これらはすべて「変化」の意味も持っています。

「変化」とはある状態に向けて「動いて」いくことだからです。

この現象は英語に限ったことではありません。日本語でも「行く」「来る」は「変化」の意味で使われますね。

「もうすぐ大事なプレゼンだね。なんだか緊張してきたよ。」

「彼の関係は徐々に冷え切っていった。」

「移動」の「移」なども「移り変わる」という日本語が示す通り、ダイレクトに「変化」に結びつきます。

「動き」のイメージを根本に持つgetも「変化」の意味に広がっていきます

“get angry”は「angryの状態に変化する」ということで「腹を立てる」という意味になるです。

 

以下のいわゆる「熟語」とされるものも、すべて「動き→変化」の発想でgetを捉えておけば楽勝ですね。

get well「元気になる」/get dark「暗くなる」/get hot「暑くなる」/get cold「寒くなる」/get close「親しくなる」/get ready「準備する」/get over「克服する」

「結婚する」の“get married”、「離婚する」の“get divorced”も同じ発想ですよ。「結婚(離婚)している状態に変化する」という、ただそれだけのことなのです。

“get to V”は「~するようになる」ということで、こちらも「変化」のgetです。よく使われる表現なので例を1つ挙げておきましょう。

Maybe you should get to know him better before going steady with him.

「真剣に交際する(go steady)前に、もっと彼の方を知る(知るようになる)方がいいと思うよ。」という意味で、getは「よりよく知る」ように「変化」することを表しています。

2. getは「動いて→手に入れる」

私たちが最初に習う「手に入れる」というgetの意味も、根本には「動き」があります。

getは何かを手に入れるために自ら動き、働きかけることを意味します。棚ぼた式に何の労力もなく偶然手に入れることではないのです。

前回の記事の冒頭に挙げた

May I get a cup of coffee?

が不自然な英文に感じられるのはこのためです。

カフェでコーヒーを注文するとき、お客さんは積極的な「動き」をしませんよね。ただ「コーヒーをください」と言って、あとはコーヒーが運ばれてくるのを待つだけです。

ウェイターに懇願し説得してコーヒーを持って来てもらうわけではないでしょう。ましてや自ら厨房に乗り込んで、コーヒーをカップに注いだりもしませんよね。

このようなときは

Can I have a cup of coffee?

とhaveを使います。haveは「動き」を感じさせない「静的な動詞」です(”May I”とするより”Can I”の方が自然ですが、それはまた別の機会にご説明します)。

3.”get O C”も「動き」の感覚

英文法に詳しい方は第5文型で使われるgetをご存知でしょう。

get O to V「OにVしてもらう」
get O p.p.「OをVしてもらう」「OをVしてしまう」

「これらの表現はそれぞれ”have O V”と”have O p.p.”で言い換えることができる」と教えられることがありますが、その説明は正確ではありません

getは「動」、haveは「静」が根本ですから、当然この二つには違いがあるのです。

つまりgetを使うときは何らかの働きかけをして「~してもらう」haveを使うときは「当たり前に~してもらう」(働きかけを必要としない)ということなのです。たとえば、

I got the manager to attend the meeting.
I had the manager to attend the meeting.

この2つの文を比べてみると、上の方は「課長を説得して、本来は出席する必要がないミーティングに出席してもらった」とか「難色をしている課長にお願いをしてミーティングに出席してもらった」いったニュアンスになるでしょう。

getが持つ「動き」の感覚、「働きかけ」の感覚がこのようなニュアンスにつながるのです。

下の方は「課長に、当然のこととして、会議に出席してもらった」といった感じです。会議に出てもらうにあたり、日時や場所などについて通知くらいはするでしょうが、それ以上の特段の働きかけをしていないという感覚です。

これを踏まえて、前回の記事の冒頭で挙げた英文を確認してみましょう。宿泊客がホテルのフロントで次の言葉を言ったとしましょう。

I want to get my room cleaned.

この文には違和感がありますが、それは、宿泊客があれやこれやと働きかけて部屋を掃除してもらうことは考えにくいからです。せいぜい「お部屋を掃除してください」とひと声フロントに声をかけるくらいでしょう。ですから、これは

I want to have my room cleaned.

とした方が自然に感じられます。

getは「動き」を根本に持ち、それが「変化」「動いて→入手」につながっていくことを理解すれば、もはやgetを「多義語」とは感じなくなったのではないでしょうか?
そもそも、縁もゆかりもない複数の意味が一つの単語になんの必然性もなく同居することなどあり得ないのです。
getのみならず「多義語」と呼ばれる言葉のほとんどは、その言葉の「根本」をしっかりとおさえれば、簡単に理解できるものばかりです。
無機質な丸暗記を避けるためにも、ぜひ言葉の「根本」に目を向けてみてください。