英語・英会話の習得に英文法の勉強は必要?不必要?(1)

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英文法を勉強するとき、なかなか学習が上手くいかず「英語・英会話を習得するのに英文法なんて必要ないんじゃないか?」と思ってしまった経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。「英文法」「不必要」などとウェブで検索してみると、いろんな記事がヒットします。そしてそのような記事を読むと「やっぱり英文法は不必要なんだ!」と思い込んでしまうかもしれません。しかし、英語・英会話を習得する上で、英文法の勉強は本当に不必要なのでしょうか?今回は英語・英会話学習における「英文法不必要論」の主張について考えてみたいと思います。

1.英語のネイティヴは英文法を意識しない?

英語・英会話学習において「英文法の勉強は不必要だ!」と唱える人の中には「英語のネイティヴは英文法なんて意識しなくても話せるじゃないか!」と主張する人がいます。

しかしこの主張は完全に的外れです。

そもそも私たちは英語ネイティヴではありません。生まれ育った言語環境や文化背景の違いをまったく無視して、「英語ネイティヴが英文法を意識しないんだから、私たちも勉強する必要はない!」「英文法など学ばなくてもネイティヴと同じように英語・英会話ができるようになる!」と主張するのは当を得ていません。

また「ネイティヴは英文法を意識しない」というのは果たして本当なのでしょうか?

筆者の手元にはネイティヴの英語習得について書かれた非常に興味深い本があります。『アメリカの子供はどう英語を覚えるか』(はまの出版)というこの本の著者はシグリッド・H・塩谷さん。

ご自身のお嬢さんがいかに英語を習得したかの記録と、アメリカの幼稚園で教師として勤務された経験に基づいて、ネイティヴの子供がどのように英語を身に着けていくかについて解説された労作です。

この中でシグリッドさんは、ネイティヴであっても子供の頃は、「be動詞を飛ばす」「不規則動詞の過去形を間違う」「三単現のsや不定詞のtoを飛ばす」などなど、様々な英文法上の間違いを犯すことを指摘されています。

そして、そのような間違いを親や周りの大人が指摘することで、子供たちの英語は矯正され、徐々に正しい英語が話せるようになるそうです。

つまり英語ネイティヴは英文法を意識しないなどということはないのです。

ある程度の水準で英語を話すようになれば英文法を「卒業」するのは事実ですが、言語習得の初期段階ではネイティヴでさえも英文法を意識し、より正しく適切な英語を使えるように訓練するのです。

2.日本人は日本語の文法なんて意識しない?

英文法不必要論を唱える人の中には「日本人だって日常会話で日本語文法なんか意識しない!」と主張する人がいます。それを根拠として、「英語・英会話の習得に英文法学習は不必要だ!」という論法を展開するわけです。

しかし「日本人は日本語文法を意識しない!」というのは本当でしょうか?

極端な例をいつくか挙げてみます。

筆者はレストランなどで給仕を受けるとき「こちらがビーフシチューになります」などと言われるとどうしても違和感を覚えます。

「なる」は変化を表す言葉ですから「ビーフシチューになります」と言う以上、「いまはビーフシチューではないものが、これからビーフシチューに変化する」ということです。

しかし、このようなとき目の前にあるのは紛れもない「ビーフシチュー」ですから、このような言葉は日本語文法的に誤りです。

またコンビニなどで「ちょうど1000円からお預かりします」と言われると、やはり違和感があります。

1000円「から」預かるのではなく、1000円「を」お客様「から」預かるというのが正しい日本語です。

さらに細かいことを言えば、「預かる」はお釣りがある時にのみ使うべき言葉です。「預かる」以上、「返す」ものがあるのが当然だからです。

ですから上記のような場合には「ちょうど1000円を頂戴します」というべきです。

重箱の隅をつつくようなことを言いましたが、上のような誤りがある人は正しい日本語の文法・語法を意識していないのです。

実生活に影響があるような例として、就職面接などでの敬語の使い方などが挙げられるでしょう。

きちんと日本語を勉強していなければ、敬語の使い方を間違えてしまい、面接官に悪印象を与えてしまいかねません。

日本語の敬語法は中学で学ぶのが一般的ですが、そこでしっかりと学ばないと、のちのちまで間違った敬語を使ってしまう、あるいは敬語そのものを正しく使えないということになってしまいます。

このような例を考えてみれば、日本人も母国語である日本語の文法を意識することがある、または意識する必要があるということがお分かりいただけると思います。

英語であろうが日本語であろうが、その言語のネイティヴでさえも文法を意識することは、言語習得の上で欠かせないと言えるでしょう。

また英語を学ぶときは、英文法と日本語文法を比較しながら考えると、楽に理解できることが数多くあります。

英文法不不必要論を唱える人は、このあたりの言語の機微を考慮していないように思われます。

3.英文法を学ばなくてもしゃべれる人がいる?

英文法不必要論者の主張の中には「英文法を勉強しなくても英語を話せるようになったノンネイティヴはたくさんいる!」というものがあります。

この主張の真偽を検討するときには「語族」「学習環境・学習効率」に注目することが大切です。

言語学では言語の歴史や共通性などに基づいて、言語を「語族」という系統に分類することがあります。この分類によると、お互いに近しい関係にある言語、遠い関係にある言語があることが分かります。

英語はインド・ヨーロッパ語族の中のゲルマン語派・西ゲルマン語群に分類されます。

これとまったく同じ分類になる言語にドイツ語やオランダ語があります。また語派は異なりますが、インド・ヨーロッパ語族という大きなくくりで英語と同じ言語として、フランス語やスペイン語が挙げられます。

これらの言語を母国語とする英語ノンネイティヴたちは、自分の母国語と英語の間に多くの共通点を見出すことができます。

その結果、英文法を体系立てて勉強しなくてもある程度の英語を話せるようになる可能性があります。

一方、私たちの母国語である日本語の系統分類はいまだに研究途上ですが、現状では日本語族・日本語派に分類されています。

つまり日本語はそれだけで独立した一派をなしている、世界の他の言語と比べてみても非常に特異な言語だということになります。

ですから語形や文型という点では、英語との共通点を見出すのはかなり難しいのです。

英語と近しい関係にある言語を母国語とするノンネイティヴと、遠い関係にある言語を母国語とするノンネイティヴでは、学習方法やアプローチ、英語の習得にかかる時間が異なるのは当然です。

「英文法を学ばなくてもしゃべれるようになったノンネイティヴがいる!」と主張する人の多くが、この「語族」という視点を無視しているようです。

一方、言語の語族的側面に注目すると「他のノンネイティヴが英文法を勉強しないから私たちも英文法の勉強はしなくても良い!」という考え方は極めて乱暴な主張だと言わざるを得ないでしょう。

4.英文法を学ばず話せるようになった日本人もいる?

「語族」に着目して英文法学習の必要性を説明すると、「日本人でも英文法を学ばずに英語を話せるようになった人がいる!」という反論をいただくことがあります。

たしかにそのような人は一定数存在するでしょう。しかしそのような例を考える場合、どういう学習環境で英語を学んだ結果、そのような英語・英会話スキルを手に入れられたかを考えることが重要です。

たとえばアメリカの大学に4年間留学し、明けても暮れても英語に囲まれた生活の中で英語を習得した人と、日本に暮らして日々の仕事と様々な家庭の用事をこなしつつ英語を勉強し、週に1回英会話スクールに通っている人とでは、取るべき英語学習へのアプローチは異なるはずです。

英文法を体系的に学ばずに生活の中で英語を習得していくというやり方は「習うより慣れろ」的なアプローチですが、このような学習方法が実を結ぶためには、日々の生活の中で英語のシャワーを浴び続ける必要があります。

しかしそのような学習環境の中に身を置ける人が、果たしてどれほどいるでしょうか?

統計を取ることは難しいのですが、筆者が数多くの方と一緒に英語・英会話を学んできた経験からすると、日本で暮らしながら限られた時間の中で英語・英会話を学ぶ場合、英文法をきちんと学んだ人の方が上達が早いようです。

方法論を学び、その上で練習を通して技能を高めていくという点では、語学は料理に似ていると思います。

たとえば、まったく知識がない状態で「おいしい卵焼きを作ってください」と言われたらどうでしょう。

材料も作り方も分からない人が、何度も何度もチャレンジして手探りで卵焼きの作り方を習得するまでには、一体どれくらいの時間がかかるでしょうか?

一方、初めて卵焼きを作る人であっても、料理の本を参考にしながらレシピを学び、その上で調理に取りかかれば、最初から「会心の出来」とはいかないかもしれませんが、何度か試しているうちにそれなりの卵焼きを作ることができるようになるでしょう。

料理でいうところの「レシピ」が、英語・英会話学習でいうところの「英文法」です。

このようなたとえを通して考えてみると、「英文法学習は不必要だ!」などと簡単には言えないことがご理解いただけるのではないでしょうか。

英語・英会話の学習環境や学習効率を検討することなく、「英文法を学ばずに英語・英会話を習得した日本人がいる!」という実例だけを根拠にして「英文法は不必要!」と結論づけるのは、やはり乱暴な考え方だと言えそうです。

今回は「英語・英会話を習得する上で、英文法を学ぶ必要はない!」と主張する英文法不必要論者の主張について考えてみました。次回の記事では、英文法不必要論者がよく例に出す「Arrow English(アローイングリッシュ)」という考え方、また「中学から英文法を学んでいるのに話せるようになっている人が少ない!」という主張について考えてみたいと思います。
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