なぜ間違える?aとtheを使い分けるマインドセット

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冠詞のaとtheの使い分けは日本語ネイティヴにとって本当に分かりづらく、頭を痛めている人も多いことでしょう。使い方を間違えたところで大きな実害はない場合も多いのですが、できることなら正しく使えるようになりたいものです。そこで今回は、冠詞のaとtheの基本的な考え方を確認してみたいと思います。

1.「名詞に冠詞をつける」という認識は誤り?

初めて出てきた単数形の可算名詞には冠詞のaをつける

これが冠詞のaに関するもっともポピュラーな説明だと思います。

しかし、果たしてこれは本当なのでしょうか?例文で確認してみましょう。

A: Sorry I’m late, but I have a reason.

B: OK. Tell it to me.

「遅れてごめん。でも訳があるんだ」「そうなの。言ってごらんよ」ということですが、たしかにreasonという言葉はこの会話の中に初めて登場した単数形の可算名詞です。

先ほどの説明の通り、reasonには冠詞のaがついています。

A: Sorry I’m late.

B: Tell me the reason.

「遅れてごめん」「訳を話してよ」というこの会話でも、reasonは初登場の単数形・可算名詞ですが、このreasonには冠詞のtheがついています

これらの例文を見てみるだけで「初めて出てきた単数形の可算名詞には冠詞のaをつける」という説明は破綻していることが分かります。

実は「名詞に冠詞をつける」という認識がそもそも間違っているのです。

たとえば”reason a”とか”reason the”のように、名詞より後ろに冠詞が出てくるならば「名詞に冠詞をつける」という認識になるでしょうが、実際は名詞より先に冠詞が出てくるわけです。

すると「名詞に冠詞をつける」のではなくて「冠詞に名詞をつける」という認識が正しいということになります。

この「冠詞に名詞をつける」という認識を持つことが、冠詞を正しく使うための出発点ということになるわけです。

aとtheが伝えようとしていること

aは不定冠詞、theは定冠詞と呼ばれます。

aとtheが伝えようとしていることはこの名前に集約されていると言っていいでしょう。

aは「不定」冠詞ですから、ものごとがはっきりしない、定まらないということを伝えようとしているのです。

theは「定」冠詞ですから、ものごとがはっきりしている、定まっているということを伝えようとしているわけです。

やや概括的な言い方をすれば、「定まる」とは話し手と聞き手の間で共通認識が持てるということです。

つまり「あなたは知らないと思うけど」「あなたは分からないと思うけど」というシグナルが不定冠詞のaであり、

「あなたも知ってると思うけど」「あなたも分かると思うけど」というシグナルが定冠詞のtheだというわけです。

いま一度、先ほどの例文を見てみましょう。

A: Sorry I’m late, but I have a reason.

B: OK. Tell it to me.

Aさんが”a reason”と言ったのは「あなたは知らないと思うけど、遅れたのには理由があるんだよ」と言いたいからです。

話し手と聞き手の間に共通認識があると感じていないため、不定冠詞のaを使ったのです。

A: Sorry I’m late.

B: Tell me the reason.

ここでBさんが”the reason”と言ったのは、「なんの理由か」について話し手と聞き手の間で共通認識があると感じているからです。

reasonの細かい内容については共通認識がないかもしれませんが、少なくとも「Aさんが遅刻した理由」であるということについては共通認識が持てていると感じているわけです。

しかし、「Aさんが遅刻した理由」という点で共通認識が持てるとすると、1つ目の例文も、

A: Sorry I’m late, but I have the reason.

B: OK. Tell it to me.

というように、定冠詞のtheを使ってもいいのではないでしょうか?

実はこれでも構いません。このような言い方をすると、2つ目の英文と同様に、共通認識を持てているという感じを持っているわけです。

「内容までは知らないかもしれないけど、あなたも知っている『私が遅刻した』という事実に対する理由があるのだよ」というという感じです。

一方で、「Aさんが遅刻した理由」という点では共通認識が持てていても、具体的な理由までは分からないのだから、「理由の内容」という点では共通認識が持てていないわけですよね。

とすると、2つ目の例文を

A: Sorry I’m late.

B: Tell me a reason.

としてはいけないのでしょうか?

もちろん、これでもOKです。

この場合は「内容については共通認識を持てていない」というニュアンスをより前面に押し出しているわけです。

つまり不定冠詞のaを使うか、定冠詞のtheを使うかは、文法的なルールというよりも、話し手の意識によって決まると言ってよいでしょう。

聞き手との間に共通認識があると思っているかどうかによって、aと使うかtheを使うかが決まるのです。

3.日本人にとって冠詞が難しい理由

先に述べたように、「名詞に冠詞をつける」のではなく「冠詞に名詞をつける」というのが正しい認識です。

そして冠詞は共通認識の有無を表すのでした。

つまり「あなたは知らないと思うけど」「あなたも分かっていると思うけど」というメッセージを相手に与えるわけです。

このようなメッセージを名詞の前につける、つまり自分がこれから話そうとしていることを相手が知っているかどうか、あらかじめ伝える。

それが冠詞の役割なのです。

あえて言えば、このようなメッセージを先に伝えるというのがネイティヴのマインドセットだと言えるでしょう。

日本語ネイティヴにはこのようなマインドセットがありません

日本語の例で確認してみましょう。

お父さんをに迎えに行くけど、一緒に来る?
で出口を間違えると本当に面倒よね。

1つ目の文の「駅」という言葉について、話し手と聞き手は共通認識を持っているでしょうか?

おそらく持っているでしょう。

どこの駅か分からないけど、とりあえず駅にお父さんを迎えに行くというのはおかしな感じがします。

2つ目の文の「駅」についてはどうでしょうか?

この場合は共通認識を持っていないのが普通でしょう。

一般論として「駅」と言っているのであって、どこか「特定の」駅を指しているわけではありません

しかし1文目や2文目で「駅」という言葉を使うとき、私たちはそれが「特定」の相手と共通認識のある「駅」か、「不特定」の相手と共通認識のない駅か、いちいち考えるでしょうか?

普通はそんなことを考えずに「駅」と言ってしまいますよね。

つまり日本語ネイティヴにはものごとの「特定」「不特定」にこだわるマインドセットがないのです。

その一方で、英語ネイティヴは「特定」「不特定」に敏感だということです。

このマインドセットの違いが、日本語ネイティヴが冠詞を難しく感じる原因だと言えるでしょう。

もっともネイティヴも毎回いちいち意識しながら冠詞を使い分けているわけではありません。

それはもはや無意識のはたらきと言っていいでしょう。

ちょうど私たち日本語ネイティヴが、「君が行かないんなら僕が行くよ」の「が」と、「君は行かなくても僕は行くよ」の「は」を無意識のうちに使い分けるのと同じことです。

4.冠詞の使い分けは「意識」することから

冠詞をうまく使えるようになるためには、その細かい用法を覚えたり、冠詞の用法の一覧表を頭に入れたりすることではありません。

まず「意識」することです。

日本語で話すときも英語で話すときも、「いま自分は相手と共通認識を持てる、相手も知っていることについて話そうとしている」のか「いま自分は相手と共通認識を持てない、相手の分からないことを話そうとしている」のかを考えてみるということです。

もちろん言葉を使うたびにそんなことを意識していると、気力も体力も消耗してしまいます。

1日5分でも10分でもよいので考える時間を取ってみて、マインドセットを自分の中に作るよう努めてみることが大切です。

このようなマインドセットは一朝一夕に形成されるものではありません。

ですから、焦らないことも大切です。

焦らず、少しずつ冠詞のマインドセットをご自身の中に根付かせていきましょう

冠詞の使い分けは日本語ネイティヴにはなかなか骨が折れますが、まずは基本をしっかりおさえましょう。そして細かい間違いは気にしすぎないことも大切です。aとtheを間違えたとしても、大きな実害が出ることはほとんどありません。気持ちをおおらかに持つことも英語を上達させる大切なポイントと言えるでしょう。
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